湯長谷の日記

佐々木蔵之介さんを推しています。蔵之介さんがかわいいとだけ書いてあるブログです。

佐々木蔵之介『マクベス』の感想

沼落ちして1年も経たないうちに、憧れてやまなかった伝説の、幻の舞台を見ることができました。大丈夫かな、私のオタク人生。こんなに恵まれていて大丈夫かな。オタク運使い切ってないかな。ありがとう、今回のWOWOW放送を実現させてくださった関係者様各位。そして、蔵之介さん。劇場が人生を少しだけ豊かにする?そんなことはないです、全く違います。「少しだけ」、なもんか。私はこんなにも幸せだ。


土曜日の夕方のオンエアで、まあ当然のことながらそんなゴールデンタイムに放映されても私のように家庭内で人権が無いものにチャンネル権はなく(子供が怒る)、平日に仕事が休みの日に見ようと思っていたんです。リアルタイム視聴できないものだから、もう録画できるかどうかっていうところから謎の緊張感がありました。再放送が(少なくとも12月中には)ないので、予約録画も一発勝負。年に1回くらい、レコーダーの裏のケーブルが外れていて録画できていなかったとかの不慮の事故があるじゃないですか?もしくは人生にはどんなトラブルがあるかわからないですからね。放映1週間前くらいから、日々任意のWOWOW番組を録画してみるなど、意味のない準備体操を入念に行いましたよね。あと、日々の行動で徳を積んで、私の人生(というよりもレコーダー)に当日何もトラブルが起こらないよう平穏無事を祈願しました。ほぼ信仰。私のオタク感情、信仰といっても過言ではない。


無事録れたら録れたで、なんかもう恋する乙女(中年)の挙動不審が止まらないわけです。何をやってもため息がこぼれるんです。平日に見る?無理でしょ、待てないでしょ、見るまでの間、私、廃人になってる、人生の効率を高めるため、可及的速やかに視聴せねば、よし、明日の日曜日、なんとか家族を外出させて見よう、というところまで、論理的に思考を巡らせたんです。だけどね、土曜の夜、眠れたものではありませんでした。隣の部屋のレコーダーの中に蔵之介マクベスがいるのに眠れる?彼が私の眠りを殺したのです。こうなる運命だったんだよ、夜中にイヤホンつけてこっそり見ました。


以下、いつもの五月雨式、まとまらない覚書です。


登場した患者の胸の3本の傷はマクベスのストーリーに象徴的な「3」かな?「何が患者にあったのか」っていうあおり文句だけど、爪まで検査されて、確かにこの患者の手は何をやってきたんだという気持ちになります。


作品の中で折に触れてスイッチする、マクベスを語っていない時の患者の表情に見入ってしまいます。混乱して怯えて、自分でもよくわからないんだ、みたいな表情に、心がぎゅーってさせられる。そして、冒頭で患者が何かを思い出して悲しそうになって眠った後、魔女に切り替わってマクベスを語り始めた時の目の光の変わり方!この人、ほんとに全部演じ分ける気だぞ!!1人20役と散々聞いていたはずなのに、そのことを私が本当に実感したのはあの魔女の目を見た時。


モニターとカメラでで3人の魔女を表すやり方、おぉ〜って思いました!古典のコンテンポラリー風味の作品の要所要所で出てくる、こういう「うまいな!こんなのよく考えつくなあ!天才〜!」って感心させられる瞬間、大好き!幸せ!


そもそも私は観劇経験値が低くて、マクベスも活字でしか読んでおらず、私にとってはこの蔵之介マクベスが舞台上で立体化した最初のマクベスなのですが、バンクォーが結構軽い感じで「あ、そんな感じなんですか!」と新鮮な気持ちになりました。リンゴ好きだし。あと、ダンカン王も温和な感じだな〜って最初可笑しくなっちゃった。原作を読んでいるだけだと、全員ガチマッチョみたいな感じがするから。いろいろと、蔵之介さんの味つけに新鮮な気分になる。いろんなマクベス見てみたい!


そして、マクベス夫人のシーン。ほんっとに素敵。そして、バスタブに入る前、脱いでる、これがアラン・カミング版の上演の注意書きに書いていたnudityか!願わくは、お風呂が適温であることを。


さすがマクベス夫人、キャラクターの密度を最高レベルに高められてる!!ただただ、目も気持ちも持っていかれる、稀代の引力。前半のマクベス夫人は本当に文句なしに最高の役だよね、語彙が足りない。


そしてね、ここで私のクレイジーな脳が、何かをフラッシュバックさせてきたんです…。なんだと思う?いや、なんていうか、先日見た惑星ピスタチオの『破壊ランナー』がめちゃくちゃによぎったんです…!1人20役の一人芝居と惑星ピスタチオのスイッチプレイ、マクベス夫人と中央防衛局の保村さんの妖艶さが私の中で交通事故を起こしていたみたいで。スタンプぺったんは一旦おいとかなくては…!いや、もうちょっとだけ書き残しておこう。本作、役の切り替えの時に、くるって身を翻すアクションをするケースが結構あると思うんだけど、それも私の中で『破壊ランナー』がフラッシュバックする原因かなと思うんです。アラン・カミングも同じ身のこなしなのかな?それとも、蔵之介さんオリジナルかな。もし後者だとして、それが若い時に仕込んだ動きが表出したものだとしたら、なんだか感慨深くなっちゃう。それにしても、バレリーナ並みにこの100分の間に回ってるよね。私はあんなにきれいに回れないよ。回るだけで体力消耗するよね、心配しちゃう。


そして、蔵之介ボディ、むっちゃくちゃ、むっちゃくちゃ、むっちゃくちゃにバキバキですやん!ありがとうございます…合掌。タオルの切り替えで夫婦の役をスイッチしながら、最後にマクベス夫人が上半身を露わにする。まさにセリフの通りマクベス夫人が「女でなくなった」瞬間、「乳房」が変貌を遂げた瞬間なのかしら。表象的な解釈はさておき、あのタオルの落とし方がほんとに、ほんとに美しかった…。ありがとう…。


マクベスの屋敷に来た時のダンカン王のセリフがすごく清々しくて、私はあの瞬間、スコットランドの風とイワツバメの羽ばたきを聞いたよ…。日本で夜中に毛布にくるまってソファの上に座っているだけなのに。ほんとにスコットランド行きたい!!ううん、もう私の心はスコットランドの森に佇み、空を舞っている!あのシーンがすごく気持ちがよくて、私は「ダンカン王はこういう好好爺だな!」ってあの時にすごくしっくりきたし、このおじいちゃんを殺さないで!!って思いました。そして、このダンカン王をもてなすマクベス夫人、もうすごくない???圧倒的主人公でしょ!男前がすぎるんですよ。


マクベスが王の暗殺を逡巡する場面、ここがベッドシーンなのか…と思って驚愕しました。インタビューで「ベッドシーンがありましたね」みたいなフリがあって、どのあたりかなと思ったらここか!確かに2人の強固な結束だわね。表現がすごくエロティックで生々しいというか、仮に「映画マクベス」であったとしたらもっと小綺麗だったりするかな?とも思いました。あまりの生々しさに乙女心(中年)が謎の傷を負ったわ。演劇表現の底知れぬ恐ろしさ…。


バンクォー殺しのあたり、暗殺者との会話が鏡を使うっていうのもまたよいですな!マクベスもまた暗殺者であり、2人は今まったく同じ顔をしている。


マクベス夫人がだんだん下降気味になってくるあたりからもほんといい。この夫妻のテンションのグラフの頂点がずれているのがこのストーリーのうまいところだなあと思う。シェイクスピア様に圧倒的感謝。グラフの頂点だけでなく、グラフの形そのものの違いもまたいいしね。そして、この辺りから先のマクベスの醜悪な表情がすごくいい。攻撃性と狂気が高まっていくマクベス、「あなたに欠けているのは、命を保つ眠りよ」のところで、患者の世界とマクベスの世界が交差したところが、すごく鮮やかだった。


マクダフの家族に奇襲をかけるというあたりで、ついにあの患者が大事そうにしてる紙袋の中身がわかったね!子供服でした。マクダフの家族のくだりはほんとしんどいよね…。やっぱり子供が亡くなるのはご法度だな。活字で読んでいるだけでもしんどいけど、舞台上で立体化するとつらさがひしひしと迫ってくる。患者がマクダフの子供の服をあの大事そうな紙袋にいれていたというのは、やっぱりマクベスにとってもショックが大きかったということかな。そしてここでもまた今まで見た蔵之介さん作品がフラッシュバックしますな…。バスタブに沈めるとか…。ええ、『リチャード3世』です。


夫人の死を聞いた時のマクベスも、どんな感じになるのだろうと見る前からすごく楽しみにしていたところでした。活字を読むだけでは想像力に限界を感じる、舞台上の俳優さんにおまかせしてゆだねて、すごいものを見せていただきたい場面。あの表情、息遣いと体の運び。白痴の語る物語、筋の通った意味などない。あるのはその一瞬一瞬の感情の昂り。この作品を見られてよかった。


マクダフとの死闘とマクベスの死をバスタブの中で見せるっていう表現もまた天才だな〜ですよ!ほんと、重ね重ね言わせてもらう、こんなアイディアどうやったらでるの?よく考えつく!


全てが終わって、自分のベッドに横たわる患者、1つもらってリンゴがまた3つになったとき、失われたものが補われたのかな、と見ながら思って、少しほっとしたのが間違いだった、いつまた会おう、3人で、のあの眼差し。あのリンゴをもらうたびに患者はマクベスを語ることを繰り返すのですね…。蔵之介さんもインタビューで話されていたけれど、確かに彼はまだ語り続けている。